全体像・基本理解
名刺は増えたのに商談が増えない会社が、決めていない一つのこと
イシモトキンヤ
展示会が終わり、集まった名刺を営業に渡したところ、「この中で追えるのは何枚だろう」と言われた。そんな経験はないでしょうか。
枚数は前回より増えている。ブースにも人は立ち寄ってくれた。それなのに、翌月のカレンダーに新しいアポイントはほとんど入っていない。
SHOWCASEが小さなブースの相談を受けるとき、この状態の会社にはほぼ共通して、ある一つの項目が決まっていません。誰に会いに行くのかです。
「幅広く」は、戦略ではなく決めていない状態
出展の準備を進めると、社内から必ずこんな声が出ます。
「業種を限定すると、他の引き合いを逃すのでは」 「せっかく出るのだから、全商品を見せたい」 「ターゲットは、とりあえず幅広く」
この判断は、悪意でも怠慢でもありません。営業、製造、経営で見ている景色が違えば、一つに決めるのは難しい。だから「幅広く」という言葉が、全員が反対しない着地点になります。
問題は、その「幅広く」が決断ではなく、決断の先送りだという点です。
ターゲットが決まっていないと、そのあとに続く判断がすべて宙に浮きます。キャッチコピーは「高品質な技術で、お客様の課題を解決します」のように、誰も反対できない代わりに誰の足も止めない一行になります。展示物は「どれも見せたいから」と増え、限られた小間の中で情報が渋滞します。声かけも「いかがですか」で始まるしかありません。
そして当日、成果を測る物差しが名刺の枚数しか残らなくなります。誰に会いたかったのか決めていないのですから、会えたかどうかを判定できないのです。
ここが見落とされやすいところです。多くの担当者は「ブースが目立たなかった」「立地が悪かった」と振り返ります。けれど本当のつまずきは、看板をつくるずっと手前、誰に向けた展示会なのかを決めなかった一日にあります。
属性ではなく、実在する一人まで落とす
では、何を基準にターゲットを決めればいいのか。
SHOWCASEでは、業種や規模といった属性ではなく、実在する一人まで絞ることをおすすめしています。
「取引したいけれど、なかなかアプローチできない、●●工業 設計部 課長の■■さん」
このくらいの粒度です。会場に「製造業」という看板を背負って歩いている人はいません。歩いているのは、名前があり、担当業務があり、上司から何かを求められている個人です。届ける相手も、同じ粒度でなければ噛み合いません。
一人まで絞ると、準備の順番が動き出します。
目的 → ターゲット → 課題 → 訴求 → 来場者行動 → ブース → 接客 → 商談
ターゲットが「製造業全般」のままでは、次の「課題」が一行も書けません。課題が書けなければ訴求は抽象的になり、抽象的な言葉では足が止まらず、足が止まらなければ会話は始まらず、商談は生まれない。上流のあいまいさは、必ず下流に流れていきます。
■■さんが決まれば、「■■さんは今、何に困っているか」を営業に聞けます。そこから出てきた具体的な言葉が、そのままキャッチコピーの材料になります。
SHOWCASEが「おへその法則」と呼ぶ、おや?(認知)→ へぇ。(興味)→ そうなんだ。(理解)→ 次の行動(接触)という流れも、出発点の「おや?」は、自分の困りごとに触れられたときにしか起きません。全員に向けた言葉から「おや?」は生まれないのです。
「絞ったら会える人が減る」という心配は要りません。■■さん一人に向けて研いだ言葉は、同じ課題を抱える大勢の来場者に同時に届きます。幅広く声をかけるのは、当日の会場でいくらでもできることです。設計の段階で広げると、届く言葉そのものがつくれなくなります。
判断に迷ったら、この問いを使ってください。
「これは、■■さんに会うために必要か?」
看板の文言、展示物、ノベルティ、声かけ。この問いに「はい」と答えられないものは削れます。小さなブースにとって、削る基準を持てることは、足す予算を持つことと同じくらい価値があります。
そして絞った結果、「この展示会に■■さんは来ていないかもしれない」と気づくこともあります。それは失敗ではなく、出展先そのものを見直せたという成果です。
今日やること(5分)
既存顧客の一覧を開いて、こう問いかけてください。
「もし自社が明日なくなったら、いちばん困るお客様は誰か」
売上の大きい順ではありません。困る度合いの順です。自社の価値が最も届いている相手が、次に会うべき相手と同じ課題を持っています。
一社決まったら、その会社の担当者の氏名・部署・役職を一行で書き出す。そこまでで完了です。
その一行が、次の展示会の設計図の一行目になります。
まとめ
ターゲットを絞ることは、会える人を減らす作業ではありません。会いたかった相手に、気づいてもらうための作業です。
この記事を読んで、自社の場合はどうなのか気になった方へ
SHOWCASEでは、現在のブースを「認知 → 興味 → 理解 → 接触 → 商談」の流れで確認し、どこで来場者を取りこぼしているかを無料で診断しています。