全体像・基本理解
展示会の出展理由が「毎年出ているから」になったとき、何が起きているのか
イシモトキンヤ
出展申込書に去年と同じ小間数で丸をつけ、予算も前年並みで通り、届いた出展社マニュアルを開いて搬入日を確認する。担当者も去年と同じ。ここまでの流れに、社内の誰も違和感を持ちません。
けれど展示会が終わったあと、名刺の束を前にして「今年は何が良かったのか」を説明しようとすると、言葉に詰まる。多いのは、そんな状態です。
「続けている」と「積み上がっている」は違う
継続出展そのものが悪いわけではありません。むしろ、同じ展示会に出続けることには合理性があります。小間の場所を確保しやすく、予算も通しやすく、前回の資料や什器が流用できる。通常業務と兼任の担当者にとって、これは現実的な判断です。
問題は別のところにあります。出展の起点が「去年出たから」になると、判断の材料が「去年どうしたか」しかなくなることです。
キャッチコピーは去年のまま。展示するのは去年と同じ主力製品。声のかけ方も去年と同じ。判断に迷いがないので、準備は順調に進んでいるように見えます。
しかし裏を返せば、今年の市場で何が変わったのか、今年は誰に会いたいのかを、一度も決めていないということです。会いたい相手が決まっていないブースは、通りかかった人を選別できません。すると残る成果指標は、名刺の枚数だけになります。
名刺の枚数は、来年また出るかどうかを決める材料にはなります。ただ、商談が生まれたかどうかは何も教えてくれません。ここで起きているのは、費用が消えていることそのものではなく、毎年払っているのに、判断の材料が一つも積み上がっていないという状態です。
「なぜ今、この展示会なのか」を市場環境から降ろす
では、何を起点にすればいいのか。SHOWCASEが最初に問うのは、シンプルな一つです。
去年と今年で、市場の何が変わったのか。
規制が変わった。取引先の業界で人手不足やEV化が進んだ。材料費が上がった。自社が新しい加工に対応できるようになった。内容は何でも構いません。去年と違うことが必ずあるはずで、そこにしか「今年出る理由」は存在しません。
そこから、順番に降ろしていきます。
変化:市場で何が起きたか
ターゲット:その変化で、今いちばん困っているのは誰か
課題:その人は、どこに手間・コスト・不安を感じているか
訴求:自社はその課題にどう答えられるか
来場者行動:その人は、この展示会に足を運ぶ理由があるか
5番目で手が止まるなら、それは失敗ではなく収穫です。会いたい相手が来ない会場では、ブースをどれだけ整えても商談は生まれないからです。展示会選び自体を見直す材料になります。
そして、この一連が一行にまとまると、以降の判断がすべて速くなります。掲げる言葉は「その人が反応するか」で選べる。展示物は「その課題を目の前で証明できるか」で選べる。接客は「その人かどうかを最初の一言で確かめる」形に設計できる。
小さなブースの前を来場者が通り過ぎる時間は、ほんの一瞬です。その一瞬で「おや?」と思ってもらうには、誰のどの困りごとに向けた言葉なのかが先に決まっている必要があります。出展理由は社内向けの説明ではなく、当日そこに何を掲げるかを決めるための設計図です。
出展社マニュアルを閉じて、一行だけ書く
今日やることは一つだけです。
出展社マニュアルを一度閉じて、「なぜ今年、この展示会に出るのか」を一行で書いてください。
型はこうです。
「〇〇という変化で困っている、△△な立場の人に、□□を知ってもらうため」
完了の条件は、うまい表現かどうかではありません。その一行を社内の別の人に見せたとき、同じ人物像が浮かぶかどうかです。「新規顧客の開拓のため」で止まるなら、まだ一行になっていません。5分あれば書けますし、書けないとすれば、それが今年いちばん大きな発見です。
まとめ
出展理由とは、去年の続きを説明する言葉ではなく、今年ブースに何を掲げるかを決めるための判断基準です。
この記事を読んで、「自社の場合はどうだろう」と気になった方へ。
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